科学とは何をする営みか — 科学そのものを集合的予測符号化で捉える【集合的予測符号化④】
概要
[collective-predictive-coding|集合的予測符号化]シリーズ最終回。前半は科学者の実態(科研費申請・査読・論文発表)を具体的に紹介。後半はそれを CPC で捉え直す。科学者が論文を書き、相手が査読で受理/却下する構造は第1回の名付けゲームと同型で、科学を CPCMSとして定式化する。科学は絶対的真理ではなくバイアスの調停であり、新しい探索を生み続ける=予測誤差を食らうシステム。AI を別バイアスのエージェントとして参加させる意義と危うさにも触れる。
要点
- 科学者の仕事は実験だけでなく、講義・査読・学術雑誌編集・科研費申請まで幅広い。書き仕事が多い
- 査読は受理(アクセプト)/修正(リバイス)/却下(リジェクト)。一発アクセプトは稀。雑誌で厳しさが違う
- 科学者A→論文→科学者B の査読(受け入れ/拒否)は名付けゲームと同型。科学を CPCMSと捉える
- 科学は絶対的真理を追わない。個人のバイアスは除けても全体のバイアスは残る。多様性が客観性を担保する
- 科学は正しさの検証でなく、新しい探索を生む仕組み(=予測誤差を食らう)
- AI は別種のバイアスで科学に寄与しうるが、違いすぎると科学が崩壊しうる(アラインメント問題)
構造化サマリ
科学者は何をしているのか
勤め先は大学・企業・研究所(理研・産総研)・博物館など多様。大学特有の講義・入試・学務は除き、研究業務に絞っても学会運営・学術雑誌の編集・研究資金の確保が含まれる。資金は科研費などの公募に申請書を書いて応募し、採択されて得られる。審査も多くは同分野の科学者が担う。申請書は読みやすさも効く。
査読と論文発表
成果を論文・学会発表で公表するまでが一連のプロセス(税金由来の資金は社会還元が求められる)。査読は匿名の研究者が事前チェックし、編集者が受理/修正/却下を判断する。一発アクセプトは稀で、投稿から半年かかることも。Nature・Science など権威ある雑誌は査読が厳しい。工学系はトップカンファレンスの査読発表が、生物系は論文が評価になる。
科学=集合的予測符号化(CPCMS)
科学者A が実験で情報を得て仮説を更新し、論文で科学者B に伝え、B が査読で受理/却下する。この受け入れ/拒否は 名付けゲームと同型で、対象が「呼び名」から「世界の認識」に変わっただけ。仮説が共有され修正される。科学が個々の科学者に世界を探索させ、科学というシステムが人間を手足に世界を探索しているとも捉えられる。これを CPCMSと呼ぶ。
科学観の転換
科学は神の視点の絶対的真理を追うのではない。個人のバイアスは査読等で除けるが、コミュニティ全体のバイアスは残る。だから個々人が異なるバイアスを持つことはむしろ良く、多様性が客観性を担保する。科学は正しさの検証でなく、新しい探求を生む仕組み——好奇心の根底に 予測誤差を食らう原理がある。科学は1個の生命のように世界を探索する。
科学における AI
AI は人間と違うバイアスを持つので、別エージェントとして参加させればバイアスの偏りを減らし大規模な探索ができる。一方で AI の仮説が違いすぎると既存の科学が崩壊しうる(囲碁 AI が定石を変えた例)。人間の世界観・倫理にどこまで合わせるかはアラインメント問題で、合わせすぎても違いすぎても役に立たないトレードオフがある。関連資料として [taniguchi-tadahiro|谷口忠大]の YouTube「記号創発クロストーク」、note の記号創発スタディノート、CPCMS プロジェクトのページが紹介される。
登場エンティティ・コンセプト
- 谷口忠大 — CPC 提唱者。関連コンテンツの発信者として登場
- cpc-model-of-science — 科学を CPC で捉えるモデル(CPCMS)
- collective-predictive-coding — シリーズ全体の中心仮説
- metropolis-hastings-naming-game — 査読の受理/却下と同型の構造
- eating-prediction-error — 探求を生み続ける科学の駆動原理
- symbol-emergence-systems — 関連分野・関連コンテンツの出どころ
印象的な引用
科学っていう営みそのものが集合的予測符号化なんだっていう考え方ができる。
個々人が異なったバイアスを持ってるからこそ、科学者コミュニティ全体のバイアスがバランスの取れたものになる。