なぜ言語は生まれたのか — ロボット工学から見た言語の起源【集合的予測符号化①】
概要
[collective-predictive-coding|集合的予測符号化]シリーズ第1回。言語の起源という難問に、意外にもロボット工学から出た仮説で迫る。鍵は メトロポリス・ヘイスティングス・ネーミングゲーム——2体のロボットが果物画像を各自分類し、受け入れ/拒否を確率的に繰り返すと、バラバラだった名前が綺麗に揃う。背景には人の思考を ベイズ推定とみなす仮説があり、人間の色分け実験でも同じ確率が再現された。各人の世界観がコミュニケーションで揃う過程として言語の起源を捉える。
要点
- 言語の起源研究は1866年パリ言語学会が禁止した過去を持つほどの難問で、今も定説はない
- 新仮説 CPCはロボット工学発。言語・社会・AI・科学まで説明しうる広がりを持つ
- 名付けゲーム: 2体のロボットが果物2000枚を教師なしクラスタリング。通信なしだと名前が一致しない
- メトロポリス・ヘイスティングス法で受け入れ/拒否を繰り返すと名前が揃う。「全部受け入れる」と分類が崩れる
- 土台は ベイズ脳仮説(頻度主義 vs ベイズ主義)。人の色分け実験でもMH法のシミュレーションと一致
- 各人の世界観がコミュニケーションで揃う=「集合的」。説明できるのは名詞の一致までで文法は射程外
構造化サマリ
言語の起源という難問とロボット工学
なぜ人間が言語を話すのかは、考えると不思議な問い。鳥も文法を備えた声を持つが人間ほどではない。言語の起源研究は説が乱立して収拾がつかず、1866年にパリ言語学会が規約で扱いを禁じた歴史がある。発達心理学や認知科学で実証的に扱えるようになった今も定説はない。その中で意外にもロボット工学から出た仮説が [collective-predictive-coding|集合的予測符号化]。提唱者は 谷口忠大で、解説者は自らを「CPC のアンバサダー」と呼ぶ。
メトロポリス・ヘイスティングス・ネーミングゲーム
CPC のきっかけになった実験。ロボットA・Bに果物画像(Fruits360、10種類2000枚)を読み込ませ、教師なしクラスタリングで各自カテゴリー分けさせる。通信がないと各自が勝手な記号を付け、AとBでラベルが一致しない。そこで一方が新しい画像に自分のラベルを提案し、相手はメトロポリス・ヘイスティングス法に従って受け入れ/拒否を確率的に判断する。提案が自分の分類をよりうまく説明するなら受け入れる。繰り返すとラベルが綺麗に揃う。命令で全部受け入れさせると、表面は揃っても各自の分類がモザイク状に崩れる。(metropolis-hastings-naming-game)
ベイズ脳仮説
メトロポリス・ヘイスティングス法はマルコフ連鎖モンテカルロ法の一種。背景に、人の思考をベイズ推定とみなす ベイズ脳仮説がある。統計には頻度主義(1万回振って各目1/6)とベイズ主義(これまでの結果=事前確率から次を推定)があり、限られた経験から推定する人間はベイズ的だとされる。子どもが「ワンワン」を覚える過程はこの名付けの好例。
人間での再現と「集合的」の意味
人間でも同じか調べた実験では、微妙に色の違う丸を2人に5分類させ、コンピューター越しに提案と受け入れ/拒否を繰り返させた。受け入れ確率がMH法のシミュレーションとよく一致し、感覚的な判断の背景に確率的な数理があると示唆された。各人が世界観を持ち、コミュニケーションで揃えていく——逆に言語・社会という上位レイヤーが個人を動かす(トップダウン)。複数の主体が集まるから揃う=「集合的」。説明できるのは名詞の一致までで、文法は今後の課題。
登場エンティティ・コンセプト
- 谷口忠大 — CPC の提唱者(本動画では提唱者として参照)
- collective-predictive-coding — シリーズ全体を貫く中心仮説
- metropolis-hastings-naming-game — CPC のきっかけになった名付け実験
- bayesian-brain-hypothesis — 名付けゲームの土台になるベイズ推定の仮説
印象的な引用
あるものに対してりんごって言ったりみかんって言ったりしてるような状態になってしまってる。だから言語の起源を考えた時にはなんでこの共通の呼び名が生まれるのかってことを考えたい。