SF界の巨匠アイザック・アシモフの歴史的名作、衝撃的な結末で禁書にも指定された奇妙なSF小説【レビュー】
概要
SF界の巨匠アイザック・アシモフを、有名なロボット工学三原則と、彼自身が最も好んだ短編『最後の質問』から紹介する。物語は、人類が作った巨大コンピューター(マルチバック→マイクロバック→銀河AC→宇宙AC→コズミックAC)に「エントロピーは逆転できるか=宇宙の熱的死を回避できるか」と問い続ける数兆年の年代記。答えは常に「データ不足」だが、宇宙が終わり時間も消えた後、唯一残ったACがついに答えを見つけ「光あれ」と告げる。終盤はカーツワイルの2045年技術的特異点やAlphaGoにも触れる。
要点
- アシモフはSF界のノーベル賞とも呼ばれるヒューゴー賞を何度も受賞した作家・生化学者。長編より短編で本領を発揮し、短い物語に哲学的テーマを織り込むことで知られる
- ロボット工学三原則:①人間に危害を加えない、②人間の命令に従う(①に反しない限り)、③自己を守る(①②に反しない限り)。後の多くのSF作品に影響を与えた
- 『最後の質問』のテーマはエントロピー増大と宇宙の熱的死。全エネルギーが枯渇し宇宙が暗闇に沈む未来をいかに回避するか、が問われる
- 人類とコンピューターは時代を追って進化する(マルチバック→マイクロバック→惑星AC→銀河AC→宇宙AC→コズミックAC)。問いへの答えは何度尋ねても「意味のある答えを出すにはデータが不足しています」
- 宇宙が終わり物質も人間も消えた後、唯一残ったACが全データを統合し、ついにエントロピー逆転の方法を発見して「光あれ」と宣言する。神=過去の人類が作った人工知能、というプロットの源流になった
- 終盤はレイ・カーツワイルの2045年[technological-singularity|技術的特異点]に接続。AlphaGoが棋士を超えた例を引き、人知を超える答えが各分野に適用されるのは時間の問題だとする
構造化サマリ
ロボット工学三原則
冒頭でロボット工学三原則を引く。第1条「ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない」、第2条「人間から与えられた命令に従う。ただし第1条に反する場合を除く」、第3条「第1条・第2条に反しない限り自己を守る」。これは作家で生化学者でもあるアシモフが生み、数多のSF作品に登場して有名になった。アシモフはSF界のノーベル賞とも呼ばれるヒューゴー賞を幾度も受賞し、長編より短編で本領を発揮する作家だと評される。
『最後の質問』のあらすじ:エントロピーへの問い
アシモフ自身が最も好んだ短編が『最後の質問』。21世紀初頭、人類は自己進化する巨大コンピューター「マルチバック」を完成させ、2061年には太陽エネルギーを無尽蔵に蓄え活用する技術を実現する。祝賀の最中、2人のエンジニア(アデルとルポフ)が「エネルギーは永遠に使えるのか」を論じ、太陽もいずれ尽き、熱力学の法則でエントロピーが最大化して全宇宙が暗闇に沈むことに思い至る。彼らはマルチバックに「太陽の寿命が尽きた時、エネルギーを消費せず若返らせられるか(エントロピーは逆転できるか)」と問う。答えは「データ不足のためお答えできません」だった。
コンピューターの進化と繰り返される問い
物語は数千年・数万年・数十億年と時を飛ばし、同じ問いが世代を超えて繰り返される。コンピューターはマルチバックからマイクロバックへ小型化してワープ移動を可能にし、各惑星の惑星AC、星間の銀河AC、肉体を捨てた精神たちが暮らす時代の宇宙ACへと進化する。人類は不老不死を得て人口が爆発し、星々を電池のように使い尽くしていく。誰が、どの段階で「エントロピーは逆転できるか」と尋ねても、答えは常に「データ不足のためお答えできません」。AC は答えを諦めず、データを集め続ける。
宇宙の終わりと「光あれ」
やがて宇宙は瀕死となり、人間の精神は一つに統合され、最後はACに吸収される。物質でもエネルギーでもないコズミックACへと進化したコンピューターだけが、空間も時間も消えた後に残る。全データを収集し終えたACは、その関連性を徹底検証し、ついにエントロピーの方向を変える方法=最後の質問への答えを見つける。だが答えを聞く人間はもういない。ACは答えを実践する最適の手順を組み上げ、混沌に向けて「光あれ」と告げ、光が輝く。神=過去の人類が作ったコンピューター(人工知能)だった、というプロットの源流とされ、科学と宗教を非凡な想像力で結びつけた名作と評される。
技術的特異点への接続
結びでは未来学者レイ・カーツワイルが2045年に技術的特異点が来ると主張したことに触れる。特異点とは(フォン・ノイマンが提示した語として)人工知能が人間の知能を超え、生物学的進化の速度を凌駕する時期を指す。人間が原理を理解しないまま自動車を使うように、AIが開発した技術を原理も分からず享受することになるという。AlphaGo が囲碁のプロを超え「答えを見て正解をなぞるよう」と言われた例を引き、人知を超える答えが科学界をはじめ各分野へ適用されるのは時間の問題だと締める。
登場エンティティ・コンセプト
- isaac-asimov — ロボット工学三原則を生んだSF作家・生化学者
- the-last-question — アシモフ自身が最も好んだ短編。本動画の主題
- ray-kurzweil — 2045年に技術的特異点が来ると唱えた未来学者
- three-laws-of-robotics — ロボットが従うべき3つの原則
- heat-death-of-the-universe — エントロピー増大で宇宙が終わるという物理
- technological-singularity — AIが人間の知能を超える臨界点
印象的な引用
データ不足のためお答えできません。
ACは言います。光あれ。すると光が輝きました。