東京大学 特別講演「重力とは何か」

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概要

大栗博司が、身近だが最も弱い基本相互作用である重力の不思議を解説する。アインシュタイン一般相対性理論では、重力を時空の曲がりとして捉える。夜空の暗さから宇宙の始まりへ話を広げ、重力の強さが生命の成立に適している理由を問う。終盤では人間原理を慎重に検討する。

要点

  • 自由落下中に重さを感じないという観察から、重力を力ではなく時空の曲がりとして説明する。
  • 重力による時間の遅れはブラックホール周辺だけの現象ではなく、GPSの補正にも使われる。
  • 一般相対性理論と量子力学の統合は未解決であり、超弦理論が有力候補の一つとなる。
  • 夜空が暗いというオルバースのパラドックスは、宇宙に始まりがあることを示唆する。
  • 生命の進化に適した重力の弱さを基本原理で説明できるかは、現代物理学の未解決問題である。
  • 人間原理は説明候補となるが、大栗は「最終兵器」として慎重に扱う。

構造化サマリ

最も身近で最も弱い力

重力は日常生活を支配する一方、自然界の四つの基本相互作用では最も弱い。講演では、数学・物理学・天文学を結集するカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の研究対象として、重力をめぐる根源的な謎を紹介する。

時空の曲がりとしての重力

アインシュタインは、自由落下中には自分の重さを感じないという観察を出発点にした。一般相対性理論では、重い物体が時間と空間を曲げ、その曲がりが物体の進路を変える。ブラックホール付近では時間の進み方が大きく変わり、より身近な応用としてGPSでも相対論的補正が必要になる。

量子力学との不整合

時空を扱う一般相対性理論と、ミクロな世界を扱う量子力学は、そのままでは整合しない。統一理論の候補となる超弦理論は、物質の基本単位を点粒子ではなく一次元の弦として捉える。

夜空の暗さと宇宙の始まり

無限で一様な宇宙に星が分布するなら、夜空は無限に明るくなるはずだ。このオルバースのパラドックスに対し、遠方の星の光がまだ地球へ届いていないという説明を与えるには、宇宙に始まりが必要になる。

ハッブルによる1929年の宇宙膨張の発見を逆算すると、高温高密度のビッグバンに至る。James Webb宇宙望遠鏡による初期銀河の観測は、約138.2億年前に誕生した宇宙の初期状態を探る手掛かりとなる。

重力の強さと人間原理

地球の形成は約45億年前であり、生命と知性の進化には長い時間が必要だった。重力が強すぎれば恒星がブラックホールになり、星や惑星を含む生命の環境は成立しにくい。重力が都合よく弱い理由を基本原理から導けるかは未解決である。

系外惑星の発見によって、太陽と地球の距離は観測者が存在できる条件から説明可能になった。同様に重力の強さも人間原理で説明すべきか。大栗は可能性を認めつつ、他の説明を尽くした後に使う「最終兵器」と位置付ける。

登場エンティティ・コンセプト

  • ooguri-hiroshi — 重力と宇宙論の未解決問題を解説する理論物理学者。
  • albert-einstein — 重力を時空の曲がりとして捉える一般相対性理論を構築した物理学者。
  • general-relativity — 重力を時間と空間の幾何学として記述する理論。
  • anthropic-principle — 観測者が存在できる条件から宇宙の性質を考える原理。
  • fine-tuning-argument — 生命を許す物理定数の都合のよさを問う議論。

印象的な引用

落ちていくときには自分の重さを感じない。

宇宙に始まりがあって初めてこういうことが言える。実は宇宙には始まりがあったんですね。